沖縄美ら海水族館をはじめ、沖縄の主要観光施設を運営する一般財団法人沖縄美ら島財団。コロナ禍で観光業が大打撃を受ける中、同財団は今こそ変革の時と捉え、DXプロジェクトチームを立ち上げました。その中核となるデータ活用基盤として、データ統一クラウドを活用されています。今回は、情報システム部門の神里氏に、導入の経緯と今後の展望について伺いました。(※インタビューは2025年8月時点の内容です)
≪スピーカー≫
一般財団法人 沖縄美ら島財団 本部 総務課 情報システム係長 神里直 氏
導入前の課題
- 豊富な観光資源と高い認知度に支えられ、積極的なマーケティングやデータ活用を行わずとも集客できていたが、パンデミックを機にその前提が崩れた
- アナログ業務のデジタル化は進んだ一方で、データは部署ごとに散在し、全体像の把握や迅速な意思決定のための分析が難しい状況だった
- 職員のITリテラシーにばらつきがあり、データ分析や可視化への心理的ハードルが組織課題となっていた
データ統一クラウドを選んだ理由
- ITリテラシーにばらつきがある職員でも直感的に操作しやすい
- SQLやデータベースの知識がなくても、直感的に操作できるため、複雑な知識が不要で導入後の学習コストを抑えられる
- 従量課金制ではなく定額制であったため、予算の見通しが立てやすい
導入後の成果/効果
- 分散していた入館者データ、購買データ、アンケート情報などを一元管理する包括的なプラットフォームを構築できた
- 1施設あたり年間200〜300時間程度の作業時間削減が見込まれている
- 施策立案や会議が勘と経験からデータに基づく議論へ移行し、新たな気づきやより精度の高い判断が生まれている
コロナ禍の危機感が組織のデータ活用推進のきっかけに
── 財団でDXを推進されている神里さん。なぜDXに取り組もうと思われたのですか?
神里:観光立県である沖縄にとってコロナの影響は本当に大きく、お客様の笑顔で溢れていた施設が一瞬にして閉鎖を迫られ、施設運営を継続できるかという不安に包まれました。社内も暗い雰囲気でしたが、水族館の飼育員が毎日来て生き物の世話を続けている姿を目の当たりにして、管理部門も何か変えなければと強く思いました。
コロナが明けてお客様が戻ってきた時に、より良いサービスを提供できるよう、この期間を変革のチャンスと捉えたんです。これまでは強いソフトパワーに支えられ、広告やマーケティングを大きく強化しなくても、お客様にお越しいただいていましたが、この機会にデータを基に柔軟かつ迅速な意思決定ができる組織に変わらなければ、と考えました。

── データ活用を始める前は、どのような課題を抱えていましたか?
神里:業務プロセスがアナログな部分が大きく、社内稟議は紙文化でした。各施設の運営管理部門がExcelでバラバラに管理していて、データを集めること自体が難しい状況でした。施設ごとの入館者データや収益データはあるものの、それらを掛け合わせて分析することができず、感覚や経験に頼った施策決定が多かったですね。
── 数あるBIツールの中から、なぜデータ統一クラウドを選ばれたのですか?
神里:さまざまなツールを比較しましたが、多くは可視化するだけにとどまり、社内展開には高いITリテラシーが求められるものがほとんどでした。また、従量課金が前提のツールでは、利用量によって費用が変動するため、予算計画が立てづらい点も大きな課題でした。
そうした背景の中で、データ統一クラウドを選んだ理由は大きく3つあります。1つ目は、データの集約から加工、可視化までを完結できるオールインワンであること。2つ目は、現場の職員も使いこなせるノーコードの操作性。3つ目は、データ活用に不慣れな職員でも安心して相談できる、手厚いサポート体制です。国産ツールならではの、日本語による有人サポートが常に受けられる点は非常に心強く感じました。
特にサポート面は、現場が実際に使い続けるうえで重要なポイントでした。他のツールでは、サポートを受けるたびに事前にチケットを購入したり、追加費用を稟議で承認してもらったりと、手続きが煩雑なケースもありました。そうなると、職員が小さな疑問に直面した際に「まあいいか」と諦めてしまい、ツールが十分に活用されないリスクが生まれます。
その点、データ統一クラウドは定額制でサポートも無制限に利用できます。現場の職員が「これどうやるんだろう?」と思ったときに、費用や手続きを気にせず気軽に相談できる環境が整うことで、データ活用への心理的ハードルを大きく下げることができると考えました。
水族館から始めた、小さな成功の積み上げ
── 実際の導入プロセスはどのように進められましたか?
神里:まずは沖縄美ら海水族館で成功事例をつくる方針のもと、2024年10月から導入を開始しました。Srushの伴走支援を受けながら、これまで散在していた入館者データや物販売上、アンケート結果、ウェブアクセス情報などを集約し、そのうえでダッシュボードの構築に取り組みました。ダッシュボードのデザインや設計は、他施設にも展開しやすいよう配慮していただきました。
── サポートで特に印象に残っているエピソードはありますか?
神里:私たちのような地方の中小規模組織の事情をよく理解し、スモールスタートしやすい身の丈に合った活用方法を一緒に考えてくれたのは、本当に心強い支えでした。こうした伴走型の支援があったからこそ、導入作業に追われることなく、組織全体で自律的にデータ活用を進めるという本来の目的に集中できたと感じています。

データが拓く観光業の未来。沖縄全体への波及を目指して
── 導入からどのような成果が出ていますか?
神里:定量的な効果としては、各施設で行われていたExcel作業が年間200〜300時間ほど削減できる見込みです。さらに、必要なデータを探す時間も大幅に短縮され、意思決定のスピードが向上しています。
定性的な成果も大きく、これまで「雨の日は水族館のお客様が増える」といった通説を信じていましたが、実際にデータを確認すると晴れの日とほとんど変わらないことが分かりました。こうした実態に基づく新たな気づきが得られるようになり、今後のキャンペーン企画にも活かせるようになっています。
── 社内の反応や活用状況はいかがですか?
神里:ダッシュボードを社内で初めて共有した際には、「これはすごい、使えそうだ」という声が上がり、社内の空気が一気に明るくなりました。ノーコードで扱えるため、「これなら情シスだけでなく現場でも使えるね」という反応も多く、活用の期待が広がりました。
最近では経営層から、管理部門も含めた予実管理を一目で確認できるダッシュボードの依頼も来ています。データ活用の価値を実感していただけている証だと感じています。
── 今後の展望について教えてください。
神里:まずは水族館での取り組みを成功させ、それを全施設へと広げていく方針です。内部的には、各施設のシステムを連携させ、人事システムなども含めて一つの基盤に統合していきたいと考えています。
さらに大きな構想として、沖縄県内の観光事業者が共通で利用できるプラットフォームをつくれたらと考えています。夏のオーバーツーリズムと冬の閑散期という課題も、データを共有することで解決につながるのではないでしょうか。沖縄は島という特性から、航空に加えて宿泊やレンタカーなどの人流データなどが集まりやすく、データ活用に適した地域だと感じています。観光業の発展は県民の生活向上にも直結します。だからこそ、私たちのような県内を代表する施設が先陣を切ってデータ活用に取り組むことで、県全体に良い影響を広げていきたいと考えています。
■沖縄美ら島財団
- 会社名:一般財団法人 沖縄美ら島財団
- 所在地:沖縄県国頭郡本部町字石川888番地
- 理事長: 湧川 盛順
- 事業内容:亜熱帯性動植物、海洋文化、首里城等に関する調査研究、知識の普及啓発、技術開発、サービスの提供等および公園緑地、レクリエーション施設、教育施設等の管理運営、並びに首里城基金、世界自然遺産沖縄基金の造成、管理および運用等
- コーポレートサイト:https://churashima.okinawa/
